夢見る夢のつづき

第1章 別離 3

2009/01/09/Fri
第1章 別離

3

どこをどう歩いたのか分からなかったが、与えられた金剛宮の部屋に戻るとゆっくりといすに腰を下ろした。
「しばらく一人にして」
セリカは部屋にいる侍女たちを退けさせる。

セリカのいる金剛宮には侍女が3人ほどいる。
この国で侍女というのは基本的に壁の置物とおなじらしい。

こちらから話しかけても必要最低限の返事しか返ってこない。
親しくなる気も馴れ合う気もないと彼女たちは思っているらしかった。
それでもよく出来ているらしく、セリカが喉が渇いたと思えば栗に出す前にのみのもは出てくるし、時間になれば食事も用意される。

しかし、それだけだ。
セリカがどんなに親しく話しかけても、はい。いいえ。としか返ってくることはない。

「侍女とはそのように教育されているものだ」
ゾラスリアで唯一セリカとまともに会話を継続させることのできる人物、皇帝レイノラルドはそう言った。

皇帝、陛下。
彼の呼び方はいろいろあるが、セリカは彼のことをレイと呼んでいる。

毎日昼過ぎに一度、様子を見にやってくる彼が言ったのだ。
「余のことはレイと呼べばいい」と。
自分を攫うように命じたものに対して、陛下と言うことに若干の抵抗を感じていたセリカは、これ幸いと彼のことをレイと呼ぶことにしたのである。

皇帝は何を考えているのか、セリカにはよくわからなかった。
軟禁状態にされ、この金剛宮と呼ばれる離宮とそれに面した庭からは外にでることは出来ないが、ここにいる限りセリカに自由を与えてくれている。
それはセリカに対し無関心で、言い換えれば死なない限りは勝手にしろと言っているようでもあったが、それなのに毎日セリカの様子を見に来ているからだ。



*************************



ウェンナリスは神殿に来ていた。
神官長から呼び出されたためだ。

神賜巫女であるセリカがイーレリーゼに連れ去られてから2ヶ月が経っていた。

神官長はボイド・ダフィーナという名の少し長めの茶色い髪の毛にアッシュグレイの瞳の男だ。
代々神官長をつとめるダフィーナ家の若き当主で、家を継ぐ前にどこで何をしていたのかという経歴は一切不明の謎の男である。
噂では世界各地を旅していたと聞いているが、どこまでが本当かわからない。

ボイドはウェンナリスの向かいに腰を下ろすと膝の上に長い指を合わせ、静かに切り出した。

「単刀直入に伺います。弱みは妹君ですか?」
「は?」

ウェンナリスはいきなり核心を衝かれあせった。
しかし隠さねばならない。
知られてしまえば利用価値がなくなったと判断されあの女は妹の命を絶つだろう。

それだけは避けなければならない。

「ゾラスリアにはその身体を闇に落とす魔術があると聞きます」
「なんの話?」
いつものように軽い口調で切り返したつもりの声はかすれていた。

「心配しなくても大丈夫ですよ。女神の加護によりこの神殿まではゾラスリアの魔術は干渉できませんから。
ここで話したことはゾラスリアには伝わりません」
ボイドはウェンナリスの心中を察しているのか穏やかな口調で言った。

「治す方法がひとつだけあると言ったら、こちら側に寝返りますか?」
「治す方法?」
思わず聞き返した。

これではもう自分でボイドの言っていることを肯定しているようなものだ。
「ええ」
しかし、ボイドは相変わらずの穏やかな口調だった。

++++++++



10年前、実は、森のほうへ逃げるようにと当時の巫女ローザリアを森へ誘導したのは彼女を逃がすためではなかった。
ウェンナリスは母を人質にとられイーレリーゼに言われるまま、彼女を森に誘導したのだ。

命令どおり彼はローザリアを森へ誘い出した。
そしてイーレリーゼの卑怯な手にかかり彼女は殺された。

人質としてとられていた母は殺さないという約束で彼はイーレリーゼに協力したのに、結局母もまた、そのとき殺されたのだった。

そのときの真相を知るものはウェンナリス以外ではそれを命じたイーレリーゼ以外いない。

もう二度と彼女に利用されないと誓ったのに・・・・・・。
また彼女はウェンナリスを利用するために今度は彼の妹を人質に取った。

そして彼は王の暗殺計画で王太子を罠に嵌めるのに利用された。
王太子エリクバルドとは長年の友であり、ウェンナリスは彼の執務のサポート役でもあった。
そこを利用されたのだ。

妹は母と違って半分魔物に侵されてはいるが、半分は人間だった。
魔物を植えつけられた妹は苦しそうだが、母のように自我が崩壊しているわけではない。
それでも妹の体の中に巣食っている魔物をイーレリーゼが操っているためウェンナリスは彼女に従うしかないのだ。

時折、妹は魔に侵され苦しそうにうめき声をあげる。
母のように狂ってしまっていれば少しはましだろうに・・・・・・。

ウェンナリスはそんな妹の姿を見るのがつらかった。
なんとか治してやりたい。
闇を追い払い、妹の体から魔物を消し妹を自由にしてやりたい。
そのためなら何だってする。

それに、いつまでも妹を人質に取られていては、ゾラスリアに対して手も足もでない。
彼はあの女に逆らえない。

しかし、今度こそ妹を殺させるわけにはいかない。



...to be continued.

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